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タイの外資規制とM&A|外国人事業法(FBA)を日本語でわかりやすく解説

タイM&Aで外資規制を知らないと致命傷になる理由

タイで会社を買収する際、最初に立ちはだかる壁が「外国人事業法(Foreign Business Act:FBA)」です。この法律を理解せずにM&Aを進めた結果、取得した株式が実質無効になったケース、買収後に是正のため数百万円の追加コストが発生したケースが実際に起きています。

FBAはタイの外資規制の根幹をなす法律で、外国人(外国法人を含む)がタイ国内で事業を行う際の業種別規制を定めています。M&Aで株式を取得する場合でも、この規制は適用されます。


外国人事業法(FBA)とは

正式名称:Foreign Business Act B.E. 2542(仏暦2542年、西暦1999年制定) 所管官庁:商務省ビジネス開発局(DBD:Department of Business Development) 適用対象:外国法人・外国人が株主の法人

「外国人」の定義には以下が含まれます。

  • 外国籍の個人
  • タイ国外で設立された法人
  • タイ国内で設立された法人であっても、外国人株主が50%以上を保有する場合

この「外国人が50%以上保有=外国人とみなす」という規定が、タイM&Aにおける外資49%上限の根拠です。


規制3業種リスト(List 1〜3)

FBAは規制業種を3つのリストに分類しています。

List 1:外国人に絶対禁止の業種

外国人の参入が一切認められない業種です。内閣許可があっても不可です。

主な業種

  • 新聞・雑誌・テレビ・ラジオ放送
  • 農地経営(水田・果樹園・農場)
  • 林業・木材加工(天然林)
  • 水産業(タイ海域内)
  • タイ薬草の抽出事業
  • 仏像・僧衣などの骨董品取引
  • タイ文化遺産に関わる土地取引

M&AでList 1の業種を取得することは完全に不可能です。

List 2:内閣許可が必要な業種

国家安全保障・天然資源・文化財に関連する業種で、内閣の許可により参入可能です。外資比率の上限は許可条件により異なりますが、原則49%以下です。

主な業種

カテゴリ業種例
国家安全保障関連国内航空・陸上輸送・海上輸送(内航)・倉庫業
文化財・美術古美術品・タイ美術工芸品の販売
天然資源砂糖製造・塩田・岩塩採取・採掘・採石

内閣許可の取得には6〜12ヶ月の審査期間が必要で、許可が下りない可能性も十分あります。M&Aで狙う場合は、現在の許可状況を事前に確認することが必須です。

List 3:商務省許可が必要な業種

タイ人が十分な競争力を持てていないと認められる業種で、商務省の許可(Foreign Business License:FBL)を取得することで外資参入が可能です。

主な業種

カテゴリ業種例
サービス業全般会計・法律・建築・土木・広告・競売
農業サービス養殖・農産物加工
商業国内商取引(タイ人保護が目的)
建設業一般建設請負

List 3に該当する業種でFBLなしに外資50%超で事業を行うと、1〜3年の禁固刑または10万〜100万バーツ(約4万〜40万円)の罰金が科されます。


外資比率49%ルールの仕組み

FBAの規制を受ける業種では、外国人株主の持株比率を49%以下に抑える必要があります。

具体例 日本企業A社がタイのList 3業種の会社B社を買収する場合:

  • A社がB社の49%以下の株式を取得 → FBA適合(OK)
  • A社がB社の50%以上を取得 → FBA違反(要FBL取得または是正)

51%の株式を保有していても、実際の経営権は持てない「マイノリティでも法的には正常」という状況が、タイM&Aの典型的な制約です。

実質的な経営権を49%で確保する方法

法的に問題のない範囲で、49%株式保有のまま実質的な経営権を確保する構造設計が実務では行われます。

  1. 優先株の活用:議決権比率を株式比率と切り離す
  2. 経営委任契約(Management Agreement):経営業務を外資側に委任する契約
  3. 取締役会過半数の確保:51%株主からの取締役選任権委任
  4. 借入金・親会社保証:融資条件で実質的な影響力を確保

ただしこれらの手法は「実質的な外資支配とみなされる」リスクがあり、法律専門家の精緻な設計が必要です。


BOI奨励企業と外資100%の例外

外資49%規制の例外として最も重要なのが、BOI(Board of Investment:タイ投資委員会)の奨励制度です。

BOI奨励企業は、FBAのリストに関わらず外資100%での事業運営が認められます。

BOI奨励を受けられる主な業種(2024年時点)

  • 電子・電気製品製造
  • 自動車・部品製造
  • 農産物加工
  • 環境・省エネ技術
  • デジタル・ソフトウェア
  • 医療・医薬品
  • 物流・流通センター

BOI奨励企業を買収するメリット

  1. 外資100%保有が可能
  2. 法人税免除期間(3〜8年)の引き継ぎ
  3. 機械設備の輸入関税免除の継続
  4. 外国人技術者のビザ取得が容易

ただし、BOI奨励資格を持つ企業の株式を50%超取得する場合は、BOIへの事前通知・承認が必要です。承認なしに取得すると奨励資格が失われる場合があります。

BOI奨励企業の取得に必要な追加手続き

  • BOIへの事前通知:譲渡の30日前
  • 変更申請書類の提出:約2,000バーツ
  • 専門家費用:20〜50万円

日タイ経済連携協定(JTEPA)の活用

2007年11月発効の日タイ経済連携協定(JTEPA:Japan-Thailand Economic Partnership Agreement)により、日本国籍の自然人・法人はFBAのList 3に限り、許可なく事業参入できる業種が拡大されています。

JTEPAの主な効果

条件内容
日本企業が51%以上保有List 3業種でFBL不要
対象業種List 3の建設・流通・金融・保険等の一部
例外List 1・List 2には適用なし

JTEPAを活用することで、List 3業種の株式51%超取得が可能になるケースがあります。ただし業種によって適用可否が異なるため、弁護士による確認が必須です。


名義貸し(Nominee)のリスクと罰則

外資規制を回避するために「名義貸し(Nominee Arrangement)」を利用するケースがあります。タイ人名義で株式を保有させ、実質的な支配権は外国人が持つ構造です。

名義貸しとみなされるパターン

  • タイ人名義の株式に対して議決権委任状を交わしている
  • タイ人株主への利益分配がなく、外国人が全利益を受領している
  • タイ人株主が実際の出資をしていない(名義だけの株主)

罰則(FBA 36条・37条)

FBA違反(名義貸し含む)の罰則は以下です。

  • 禁固刑:最大3年
  • 罰金:最大100万バーツ(約400万円)
  • 法人解散命令

タイ商務省は近年、名義貸し調査を強化しています。2022〜2024年にかけて数十件の摘発事例が報告されており、「昔から皆やっていること」は通用しなくなっています。

M&Aで買収した会社が名義貸し構造を持っていた場合、買主も共犯とみなされるリスクがあります。DDで名義貸しの痕跡を必ず確認してください。


M&Aで外資規制をクリアする3つの方法

方法①:BOI奨励資格のある企業を選ぶ

最もクリーンな解決策です。BOI奨励企業であれば外資100%保有が可能です。BOI奨励企業のM&A案件は人気が高く競争が激しいですが、価格プレミアムを払っても長期的なリスク低減効果があります。

方法②:FBA規制対象外の業種を選ぶ

FBAのList 1〜3に含まれない業種(製造業の多く・輸出特化事業等)であれば外資比率制限がありません。業種選択の段階でFBAの適用可否を確認することが重要です。

方法③:JTEPAを活用してList 3で過半数取得

日本企業であればJTEPAを活用してList 3業種で51%超の取得が可能なケースがあります。弁護士の確認のもと、JTEPAの適用業種リストと対象会社の業種を照合します。


最低資本金と外国人就労要件

外資規制と密接に関連する要件として、外国人就労に関するルールも理解が必要です。

外国人従業員を雇用するための要件

  • 最低資本金:外国人従業員1人につき200万バーツ(約800万円)
  • タイ人従業員の雇用:外国人1人に対してタイ人4人以上

タイ法人を買収し、日本人スタッフを派遣して経営を行う場合、資本金と従業員比率がこの要件を満たしているかを事前確認してください。


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